ウィーン・フィル来日
今年は新型コロナウィルスの影響で数多くのコンサートが中止になったが、今回「ウィーン・フィルハーモニーウィークインジャパン2020」の開催が夢の実現を果たす。
11月4日、世界のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団が満を持して来日した。
滞在先の北九州市のホテルでオンラインの記者会見を開いたダニエル・フロシャウアー楽団長は、「特殊な状況下で、世界中も注目するなか入国できて誇りに思う。未来へのレールを敷くことができたのではないか」と語った。
ウィーンでは、現在はコロナの感染拡大で再びロックダウン(都市封鎖)となっている。
「音楽の重要性を世界に示すことのできるチャンス」と、事務局は強調した。
この実現に、私は心が震えるほどの感動を覚えた。
各種の感染防止措置を徹底するなかで公演に臨む「音楽大使」のメンバー。
音楽の力で日本に希望と喜びを届けてくれるに違いない。
指揮=ロシアの巨匠、ワレリー・ゲルギエフ
東京公演会場・サントリーホール 大ホール
新しいオーケストラ様式
今年3月頃から、新型コロナウィルス感染症拡大防止のために世界中ほとんど全てのオーケストラは活動を休止していたが、6月頃から日本でも演奏会再開のための具体的な取り組みがさまざまな団体で始まった。
それは、科学的な実験や飛沫の計測によって、どのようにすれば、感染リスクを可能な限り減らして公演ができるのかというがガイドラインなどの作成である。
代表的な例としては、東京都交響楽団が試演(6月11、12日)に基づいて策定した「演奏会再開への行程表と指針」、兵庫県立芸術文化センターが「どんな時にも歌、歌、歌!佐渡裕のオペラで会いましょう」(7月23、24日)を開催し、その結果をまとめた新型コロナウィルス感染対策報告書などがあげられる。
コロナ禍、日本で最初に聴衆を入れての定期演奏会を開いたのは、6月21日の東京フィルハーモニー交響楽団であった。
密ができないように定期会員の座席を配置し直して、プログラムを短縮に変更しての上演。
読売日本交響楽団や都響は、当初予定されていた演奏家を中止して、小編成で短めのプログラムを新たに組んだ。
読響は、鈴木優人指揮でモーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」(7月5日)、原田慶太指揮でハイドンの交響曲第100番「軍隊」(7月14日)を、第1ヴァイオリンが6名という編成で演奏。ひとりひとりの熱演で音量的に不足を感じない、と好評を博す。
都響は、音楽監督・大野和士が指揮を執り、12日にベートーヴェンの交響曲第1番とプロコフィエフの交響曲第1番「古典」ほか、19日にベートーヴェンの交響曲第2番ほかで、活動を再開した。
現在は外国人の来日が困難であることから、東京交響楽団は、音楽監督ジョナサン・ノットがヨーロッパで事前に収録した指揮映像に合わせて、ドヴォルザークの交響曲第8番(7月18日)、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」(7月23、25日)を演奏するという試みを行った。
再開後の演奏会では、楽員のマスク着用での演奏(本番ではマスクをしない楽団もあり)や飛沫の拡散を防ぐためのアクリルボードの使用が常例化されている。
楽団員たちは距離をとっての演奏。指揮者と楽員は終演直後の握手を避け、肘タッチ。聴衆が「ブラボー」などの歓声をあげるのも禁止となった。
客席はホールの定員の半分以下に制限。プログラムもステージ上の密を避けるために、合唱付きや大編成の作品は避けられ、小編成の曲が中心となっている。
ロビーでの感染防止のため、休憩時間を設けない短縮プログラムでの演奏会も増えた。
また現状では外国人の入国が厳しく制限されているので、海外のオーケストラが来日できないのはもちろん、指揮者やソリストも日本に入れず、日本人指揮者や演奏家が代役を務めている。
距離が生み出した新たな音響
コロナ禍で最も影響を受けている音楽にジャンルは、合唱に違いない。
バッハ・コレギウム・ジャパンは、例年4月に行っている「マタイ受難曲」を8月3日に延期し、1日2公演で聴衆を振り分けて、密を避けた。そして、舞台上も合唱、オーケストラの人数を通常よりも減らし、奏者間の距離をとって演奏を行った。
(8月3日、東京オペラシティコンサートホール)
ステージを目いっぱい使い、扇形に陣形を組む奏者たち。
鈴木雅明の指揮のもと、制限の苦境を逆手に取り、それを音楽的に昇華させた。
これから、音楽はどこへ向かっていくのか。
今こそ求められる音楽のチカラ。コンサート舞台への演奏家たちの再出発は、疾病禍の脅威に晒される全人類の希望の光である。
withコロナ時代でも音楽は響く。