52ヘルツの歌声

私たち、ヒトの声の周波数の範囲は概ね100Hz(ヘルツ)~1000Hz。
実際に出せる声の範囲はソプラノやテノールといった声種で違う。
また、人が聞くことのできる音の範囲は200~20000Hzである。
ピアノ(33~5274Hz)やヴァイオリン(200~3200Hzha)は最も広い範囲の音を演奏することができる。

より声なき声に耳を傾けなければならない、コロナ禍の時代。
私たちに誰かの心の叫びが聞こえるだろうか。

ヘルツという周波数

52ヘルツの歌声

ヘルツ(英:hertz 記号:Hz)とは、国際単位系(SI)における周波数(frequency)のSI単位である。
その名は、19世紀ドイツの物理学者で、電磁気学の分野で重要な貢献をしたハインリヒ・ヘルツに因む。

音は空気の振動によって発生する。
その振動の速さ(1秒間に振動する回数)を数値で表したものが周波数〔Hz〕(ヘルツ)である。
振動がゆっくりな場合、数値が小さく、人間の耳には低い音として聞こえる。
逆に振動が速い場合には数値が大きく、高い音として聞こえる。

犬の鳴き声、人間の声、鳥のさえずり。おおよそこの順で数値が大きくなる。
人の日常会話は250~4千ヘルツに収まる。

仲間に届かない52ヘルツの声

52ヘルツの歌声

~小説『52ヘルツのクジラたち』

昨年2月に本屋大賞を受賞した、心理フィクション小説。

通常、クジラは仲間たちとコミュニケーションをとるために10ヘルツから39ヘルツの声で鳴く。
米国の西海岸に生息すると信じられてきた或る一頭のクジラは、仲間には届かない52ヘルツの音で歌い続け、「世界一孤独なクジラ」と呼ばれる。
その声は、あまりに高音であるため、他のクジラには届かない。聞こえなければ出会うこともできない。
孤独なクジラの声を受けて止めてくれる仲間は、どこにもいないのだ。

主人公の貴湖は、ある日まったく言葉を発することができない少年に、そのクジラの話を聞かせる。
「わたしは、あんたの誰にも届かない52ヘルツの声を聴くよ」

東京から、大分の海辺の町に立つ、祖母が遺した一軒家に越してきた貴湖は、自分と同じ匂いがする、親から愛情を注がれていない孤独な少年を見過ごすことができなかった。
物語は母親から「ムシ」と呼ばれ、虐待を受けている少年に今と、近隣の老人たちにあらぬ噂をたてられている貴湖の過去を、じっくりと描き出していく。

かつて母親の再婚で家族から疎外され、病床についた義父の介護で自己犠牲を強いられていたにもかかわらず、「助けて」と声を出せずにいた貴湖は、実家を離れた今も、心と体に未だ癒えぬ傷を抱えてもいた。
痛みを知る貴湖は、今まさに血を流し続けている少年に、寄り添い手を伸ばし、救いたいと願う。

52ヘルツの歌声

しかし読者の胸には、そんなふうに綺麗にはまとめられない、声なき声の叫びが刻まれる。
虐待されている子どもだけではない。自身の周囲にも、声をあげられずに苦しむひとや、小さな声しか出せず足掻いているひとがいるかもしれないと気付かされるのだ。
自分にはなにができるのか。どうすればいいのか。
「考えなしの善意」とはなにかと、考えずにはいられなくなる。
世に投げかけられたこの作品の問いから、より多くの人が耳をすますようになるだろう。

52ヘルツの歌声

声をあげる。受け止める。
促された勇気と覚悟を、持ち続けたい。

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